更新日:2025年11月1日|F1経済・レギュレーション解説シリーズ
2026年からF1は大きな転換期を迎えます。 パワーユニット(PU)の新規格、空力ルールの見直し、そして新チーム・新メーカーの参入…。 こうした技術的変化があるときに気になるのが「コストキャップ(予算制限)」の扱いです。 果たして、2026年シーズンではこの上限が緩和されるのでしょうか? この記事では、現在の規定と今後の見通しをわかりやすく解説します。
💰 そもそもコストキャップとは?
コストキャップ(Cost Cap)は、2021年に導入されたチームの年間予算上限制度です。 かつては上位チームと下位チームで年間開発費に1億ドル以上の差がありましたが、 この格差を是正し、より競争的なグランプリを実現するために設けられました。
💡 基本ルール(2024年時点)
・各チームの年間支出上限:約1億3,500万ドル(約210億円)
・テスト費用やマーケティング、ドライバー給与は対象外
・物価やインフレに応じて毎年微調整される
この制度によって、資金力のあるチームが無限に開発投資できないように制限されています。 その代わりに中堅チームも上位に挑める構造が整い、レースの均衡が向上しました。
⚙️ 2026年に変わる“技術規定”とは?
2026年はF1における大改革の年です。 以下のような技術変更が予定されています。
- パワーユニット(PU)のハイブリッド比率を引き上げ(MGU-K出力が倍増)
- 100%持続可能燃料(カーボンニュートラル燃料)を採用
- 車体空力を見直し、ドラッグ削減と軽量化を両立
- 新規参入メーカー(アウディ、フォード×レッドブルなど)の追加
こうした大規模変更には、当然ながら開発コストの急増がつきものです。 つまり「今のコストキャップで対応できるのか?」という疑問が生まれます。
🏦 FIAとF1の立場:原則は「上限維持」
FIA(国際自動車連盟)とFOM(フォーミュラ1運営会社)は、2025年中にコストキャップの再評価を予定しています。 ただし現時点では、「基本的な上限は維持する」という姿勢を崩していません。 その理由は次の通りです。
- 制度の一貫性を保つことで、中小チームの信頼を維持するため
- 2021年導入以降、予算上限が競争均衡に効果を発揮しているため
- 大手チームに過度な投資競争を再開させないため
つまり、「新規格=緩和」という単純な構図ではないのです。
📊 ただし、例外的な“追加枠”が議論中
FIAとチーム間の協議では、完全緩和ではなく「特定目的での例外的上限引き上げ」が検討されています。 たとえば:
- 新PU開発に関する初期投資(研究・試作費)
- 2026年シャシー規格に合わせた風洞モデルの再構築費用
- サステナブル燃料テストや安全基準対応コスト
これらは“イノベーション目的の支出”として、一時的な追加上限(例:+2000万ドル)を設ける案が出ています。 FIAテクニカルディレクターのニコラス・トンバジスも「新技術移行期には柔軟性が必要」とコメントしています。
🏗️ 新規参入チーム・メーカーへの特別措置
2026年に参入するアウディや、PU供給を再開するフォード×レッドブル・パワートレインズには、 初年度のみ特別な支出枠が設けられる見込みです。 これにより、既存チームとの開発遅れを補うことが目的とされています。

▲ 2026年からF1参戦を開始するアウディのPU開発拠点(ドイツ・ノイブルク)
ただしこの措置も期限付き(2026~2027年)であり、 長期的には全チームが同一条件になる方針です。
💡 チームごとの立場の違い
| チーム | 立場 |
|---|---|
| レッドブル | PU自社開発でコスト増。部分的緩和を希望。 |
| メルセデス | 制度維持を主張。既存体制を活かした安定重視。 |
| フェラーリ | 伝統的に柔軟対応を要求。独自開発費用の確保を望む。 |
| マクラーレン/ウィリアムズ | 中堅チームの立場から上限維持を支持。 |
このように、チームによって「緩和」への賛否が大きく異なっています。 一枚岩ではないため、FIAも慎重な姿勢を崩していません。
🧮 コストキャップと開発制限の“連動構造”
実はF1には、コストキャップのほかに風洞・CFD使用時間制限(ATR)も存在します。 これはチーム順位によって研究時間を制限する制度です。
- 1位チーム:使用制限70%
- 10位チーム:115%
この「金と時間」の両面制約によって、F1は過度な開発競争を抑制しています。 そのため、コストキャップだけを緩めても意味がない、というのがFIAの基本的立場です。
🔍 今後の見通し:完全緩和ではなく“限定的調整”
現在(2025年時点)での有力シナリオは以下の通りです。
- 基本上限(約1億3500万ドル)は維持
- 新PU開発・規格対応に限り一時的に追加枠を認可
- 2028年までに再び統一ラインへ戻す
つまり2026年のF1は、「緩和ではなく柔軟化」という形で対応される可能性が高いと考えられます。
📘 まとめ|コストキャップは“守るが調整する”方向へ
- 2026年はPU・車体規格が大幅変更される
- 基本的なコストキャップ制度は維持される
- 新技術対応のため限定的な追加枠が設けられる見通し
- 完全緩和は行われない可能性が高い
F1は「進化」と「公平性」の両立が求められるスポーツです。 2026年の新時代を迎えるにあたって、コストキャップはそのバランスを取る重要なルール。 各チームがどんな工夫で新レギュレーションを乗り切るのか、注目が集まります。

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