最近のF1予選はタイム差1秒以内に多数のマシンが並ぶ大接戦。なぜこんなに僅差になっているのか?現行レギュレーションの背景を技術・経済・運営の視点から詳しく解説。
はじめに
ここ数シーズンのF1を見ていて感じることは、「予選がとにかく接戦」になっているという点です。
一昔前ならトップチームと中団で1秒以上の差が当たり前でした。しかし現在は、Q1で1秒以内に15台がひしめくこともしばしば。
これは単に「各チームの実力が拮抗している」だけではなく、FIAとF1が導入した一連のレギュレーション変更が大きく影響しています。
では、具体的にどのような要素が予選の接近化を生んでいるのでしょうか。
1. 空力レギュレーションの統一化
1-1. 2022年の大改革
2022年からF1は大規模なレギュレーション変更を実施しました。
- グラウンドエフェクトの復活
- シンプル化されたフロントウイング
- 複雑なバージボードの禁止
これにより、空力的な「抜け道」や「チームごとの差別化ポイント」が減少。
結果的に「空力開発で突き抜けるチーム」が少なくなり、マシン性能の収束=ラップタイム接近につながりました。
1-2. ダーティエア対策
空力をシンプルにしたことで、前車の乱気流を受けても追走しやすくなり、実戦での差も縮小。予選でのマシン性能も「空力の抜け目」より、ドライバーとチームの総合力で決まるようになっています。
2. パワーユニット性能の凍結
2-1. 開発競争の抑制
2022年からF1は PU(パワーユニット)の開発凍結 を実施。
- ホンダ/メルセデス/フェラーリ/ルノーの4メーカーの性能差は大幅に縮まりました。
- 以前のように「メルセデスが0.5秒速い」といった差が消滅。
2-2. 信頼性優先の時代
PUの改良が「信頼性向上」に限定されたため、全チームがほぼ同等のパワーを持つ状況になりました。
予選のパワーモードの違いも小さくなり、「直線で抜ける/抜けない」の差が縮小。
👉 これにより「マシン差で秒単位の違い」が消え、接近戦が日常になりました。
3. コストキャップ(予算制限)の影響
3-1. 格差の縮小
2021年から導入されたコストキャップ(予算制限)により、チーム間の開発資金格差が抑えられました。
- レッドブルやメルセデスのようなビッグチームも、無限に資金を投下できなくなった。
- 小規模チームでも限られた資金を効率的に使えば、十分に戦える環境が整った。
3-2. ミッドフィールドの進化
特にアルピーヌ、マクラーレン、アストンマーティンといった中団チームが大きく成長。
「3強 vs その他」という構図が崩れ、中団とトップの差が歴史的に小さくなっているのです。
4. タイヤ供給の一元化
4-1. ピレリの役割
F1では2011年からピレリが単独サプライヤーとなっています。
- コンパウンドの特性が全チームで共通。
- 予選時の温まり方やピークパフォーマンスが似通う。
4-2. ドライバーの影響が大きい
「誰がうまくタイヤを温められるか」でラップタイムが変わるため、マシン性能差よりもドライバーの技術が際立つ傾向に。
結果、全体の差が狭まり、予選が白熱する要因となっています。
5. DRSと規則の標準化
- 空力効率を決める大きな装置=DRSは全チームに同条件で提供。
- 車体寸法や最低重量などの規則が厳密に統一化され、設計の自由度が縮小。
👉 これにより、チームごとの奇抜な設計差が出にくい=差が秒単位で開かないという現象が生まれています。
6. シミュレーションとシミュレーターの進化
- CFD(流体解析)や風洞の制限下で、各チームはシミュレーションの精度を向上。
- 実走テストが少なくても性能を最適化できる。
つまり「資金力よりも計算力」で戦えるようになり、小規模チームでもタイムを削れる環境になっています。
7. 実際の予選でのデータ例
- 2023年モナコGP Q1:20台中19台が1秒以内。
- 2024年バーレーンGP Q1:トップから18位まで1.1秒差。
- 2025年シーズン序盤(想定):PU・空力の均衡が続き、さらに接近。
👉 数字としても「1秒の中に全フィールドが収まる」傾向は強まっています。
8. ファン視点でのメリットとデメリット
メリット
- 予選が常に接戦で、どのドライバーにもQ3進出のチャンス。
- 小規模チームの「番狂わせ」が起きやすい。
- ドライバーの腕前がより際立つ。
デメリット
- マシン間の差が少なすぎて、決勝では「列車状態(DRSトレイン)」になりやすい。
- 技術革新や奇抜なアイデアが出にくい。
- 「速すぎるマシンが現れる」ワクワク感は減少。
9. 今後の展望(2026年レギュレーション)
- 2026年には新PU規則(電動化強化、持続可能燃料)が導入。
- 空力の一部も見直され、「さらに均衡化」する可能性がある。
- ただし新レギュレーション初年度は「差」が広がる傾向もあるため、一時的に格差が戻るかもしれない。
まとめ
近年のF1予選が接近戦になっている理由は、現行レギュレーションが性能の均衡化を意図的に推し進めているからです。
- 空力規則の単純化で差が縮まった。
- PUの開発凍結で性能差がほぼ消滅。
- コストキャップで資金格差が抑制。
- ピレリの単独供給でタイヤ特性が共通化。
- シミュレーション技術で中小チームもタイムを削れる。
これらの要素が重なり、**「1秒以内に多数のマシンが並ぶ予選」**という、かつてないほどの接戦時代を生み出しています。
予選は推し選手がQ3まで進出できるのかソワソワしてしまいますよね!
だけど接戦のほうがレースは面白い!
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